まだ笑ひ止まぬのを
新まいの雇女にお客と間違へられて、お文の叔父の源太郎が入つて来た。
「お出でやアす。」と、新まいの女の叫んだのには、一同が笑つた。中には腹を抱へて笑ひ崩れてゐるものもあつた。
「をツさん、えゝとこへ来とくなはつた。今こんな手紙が来ましたのやがな。独りで見るのも心持がわるいよつて、電話かけてをツさん呼ばうと思うてましたのや。」
お文は女どものゲラ/\とまだ笑ひ止まぬのを、見向きもしないで、銀場の前に立つた叔父の大きな身体を見上げるやうにして、かう言つた。
「手紙テ、何処からや。……福造のとこからやないか。」
兄さんが顔を血だらけにして
「お前は、今夜来るくらいなら、死んだ時何故知らせなかった」
と云うと、
「お父さんやお母さんに知らせると、歎くと思ったから、二人の弟にだけ、その晩に知らしてある」
と云った。そこで父親は、次男と三男に尋ねてみると、
「その通りだ、あの晩、私等二人は、兄さんが顔を血だらけにして帰った夢を見たが、皆が心配すると思って黙っていた」
と云うと、
「そうとも、それで皆判ったろう、これだけ
同時に母親は其の場に倒れて昏睡状態に陥り、翌日の
或夜非常に晩おそく
露路裏や遊廓なぞに却て散歩の足を向ける。そして雨に濡れた汚い人家の
おしゃべりの方で
あの人は妾の顔を見るとこう言いました。食堂ですぐ前に顔を向きあわせていたので、何か言わなければいけないと思ったのでしょう。あとでほんとうにそうだと言っていました。
妾も二時間あまり石のようにだまっていたので、何か話したくて話したくてしょうがなかった
外へ出ても妾は話しつづけていました。あの人は妾が話しかけるもんだから、仕方なしに妾についてきました。そのうちにあの人もぼつぼつ話し出しました。
「帰朝歓迎会なんていうものくらい下らんものはありませんね。あの場ではみんなが心にもなくほめちぎっておいて、帰り
こんなことをあの人が言ったのを妾はおぼえています。
物質的な被害
恰度この時いつの間にかやって来た例のカイゼル氏が、二人の会話に口を入れた。
「――つまり奥さんは、もう一人の証人である百姓の男に助けられる迄は、その場で
で、大月はその方へ向き直って、
「すると、その百姓の男と言うのは?」
「つまり奥さんと同じ様に、
親切にもそう言って警官は出て行った。
大月は、それから夫人に向って、この兇行の動機となる様なものに就いて、何か心当りはないか、と訊ねた。夫人はそれに対して、夫は決して他人に恨みを買う様な事はなかった事。又この兇行に依って物質的な被害は受けていない事。若しそれ等以外の動機があったとしても、自分には一向心当りがない事。等々を答えた。
私やそんなものの
「ええ、聞きたくもない! 削ぎとった鼻なんかを、この部屋に置いとくなんて、そんなことを私が承知するとでも思うのかい?……この出来そくない野郎ったら! 能といえば、
鳩の鳴く声
一郎は自分のものは何でもひとにやることがきらひなたちでしたから、お時計の鳩が自分の年を喰べるときくと、たいへんいやな気がして、いきなりステツキで時計の
「ばか、僕のお年なんかたべるんぢやない、ばか、ばか。」
一郎はさういひながら、今度はステツキで二つ三つ、つゞけて鳩を